経済更生運動と民俗

経済更生運動と民俗
1930年代の官製運動における介在と変容

和田 健 著

定価:本体4,500円+税

2021年2月20日刊
A5判上製 / 224頁
ISBN:978-4-909544-16-2


「空気」はだれがつくるのか?
満州事変の翌年に始まった「農山漁村経済更生運動」は、「生活改善指導」の名の下、緩やかに民俗慣行に介入していく。
むらの相互扶助システムは、相互監視の役割をも果たし、「守らなければならない」という雰囲気が人びとを包み込む。
日中戦争開戦へと至る「空気」はどのようにつくられたのか?
各町村が策定し、県がとりまとめた『茨城県農山漁村経済更生計画書』をつぶさに読み込み、官製運動が「民」を動かすメカニズムに迫る。


目次
序章 一九三〇年代の官・民合わせて創られた民俗慣行
一 時代の変化、生活の変化、そして民俗慣行の変化
二 本書で示したい問いの設定

第一章 農山漁村経済更生運動と更生計画書
一 経済更生運動と更生指定町村
二 更生計画書の書式と更生委員会の所掌
三 経年で見る茨城県更生計画書の書誌的特徴
四 経済更生運動の画期

第二章 日常生活・人生儀礼に関わる生活改善指導
一 時間の確守に関わる改善指導
二 冠儀に関わる改善指導
三 婚儀に関わる改善指導
四 葬儀に関わる改善指導
五 入営退営に関わる民俗慣行の改善指導

第三章 数量化、組織化、明文化で生活改善指導を実行する方法
一 数量化で示す生活改善指針
二 農家組合の網羅的組織化による実践
三 村内で明文化する目標設定の取り決め
四 まとめ─更生計画の過程で刷新されるむらの組織化と生活改善の確守方法─

第四章 同時代に交差した経済更生運動と生活改善運動
一 通俗教育としての生活改善運動
二 事前に網羅的な生活改善規約を持っていた更生指定町村
三 生活改善同盟会指導書の記述と更生計画書における生活改善事項の記述

第五章 「因習」「弊風」「陋習」とみなす評価、「美風」「美俗」とする評価
一 はじめに
二 社会教化部の序文・結文に記される否定的評価としての「因習」「弊風」「陋習」
三 「美風」「美俗」の奨励
四 まとめ─思想の善導と時代状況─

第六章 まとめと今後の課題 官製運動において介在される民俗慣行
一 一九三〇年代半ば(昭和七~一二年)を結節点とみる民俗慣行の変化
二 重層し継承された官製運動による民俗慣行への介在とその意味
三 レッテルを貼られる民俗慣行─「陋習」と「美風」の持つ意味─
四 「自力更生」のもと緩やかにつくられる「空気」と雰囲気、「世間」として機能するむら

参考文献
あとがき
索引→公開中


著者
和田 健(わだ・けん)

千葉大学大学院国際学術研究院・国際教養学部教授
専門は民俗資料論
主要著書に『協業と社会の民俗学』(単著、学術出版会、2012年)、『海の暮らしと房総の民俗』(単著、千葉日報社、2009年)、『民俗学的想像力(歴博フォーラム)』(共著、せりか書房、2009年)、『日本の民俗6 村の暮らし』(共著、吉川弘文館、2008年)など

書評・紹介

  • 2029-09-18「図書新聞」
    評者:畠中耕

ほんのうらがわ(編者による刊行エッセイ)

井上靖の原郷──伏流する民俗世界

井上靖の原郷新刊
伏流する民俗世界

野本寛一 著

定価:本体2,500円+税

2021年1月29日刊
四六判上製 / 224頁
ISBN:978-4-909544-15-5


「ここで私という人間の根柢になるものはすべて作られた」
長じて稀代のストーリーテラーと呼ばれることになる作家は、郷里・伊豆の風土から何を承けとったのか?
「自伝風小説」を中心とした精緻な読みと、長年にわたるフィールドワークの成果から、作家の深奥に伏流する民俗世界を立体的に浮かび上がらせる。


目次
旅のはじめに

Ⅰ 井上靖の原郷──伏流する民俗世界
第一章 生きものへの眼ざし
第二章 植物との相渉
第三章 食の民俗
第四章 天城山北麓の冬
第五章 隣ムラ・長野へ
第六章 籠りの力
第七章 始原世界への感応
第八章 馬
第九章 狩野川──河川探索の水源

Ⅱ 井上靖の射光──ある読者の受容

追い書き
井上靖 作品名・書名索引→公開中


著者
野本寛一(のもと・かんいち)

1937年 静岡県に生まれる
1959年 國學院大學文学部卒業
1988年 文学博士(筑波大学)
2015年 文化功労者
2017年 瑞宝重光章

専攻──日本民俗学
現在──近畿大学名誉教授

著書──
『焼畑民俗文化論』『稲作民俗文化論』『四万十川民俗誌──人と自然と』(以上、雄山閣)、『生態民俗学序説』『海岸環境民俗論』『軒端の民俗学』『庶民列伝──民俗の心をもとめて』(以上、白水社)、『熊野山海民俗考』『言霊の民俗──口誦と歌唱のあいだ』(以上、人文書院)、『近代文学とフォークロア』(白地社)、『山地母源論1・日向山峡のムラから』『山地母源論2・マスの溯上を追って』『「個人誌」と民俗学』『牛馬民俗誌』『民俗誌・海山の間』(以上、「野本寛一著作集Ⅰ~Ⅴ」、岩田書院)、『栃と餅──食の民俗構造を探る』『地霊の復権──自然と結ぶ民俗をさぐる』(以上、岩波書店)、『大井川──その風土と文化』『自然と共に生きる作法──水窪からの発信』(以上、静岡新聞社)、『生きもの民俗誌』『採集民俗論』(以上、昭和堂)、『自然災害と民俗』(森話社)、『季節の民俗誌』(玉川大学出版部)、『近代の記憶──民俗の変容と消滅』(七月社)、『民俗誌・女の一生──母性の力』(文春新書)、『神と自然の景観論──信仰環境を読む』『生態と民俗──人と動植物の相渉譜』(以上、講談社学術文庫)、『食の民俗事典』(編著、柊風舎)、『日本の心を伝える年中行事事典』(編著、岩崎書店)ほか

書評・紹介

  • 2021-04-24「信濃毎日新聞」

ほんのうらがわ(編者による刊行エッセイ)

    「くだらない」文化を考える──ネットカルチャーの社会学

    「くだらない」文化を考える
    ネットカルチャーの社会学

    平井智尚 著

    定価:本体2,300円+税

    2021年1月26日刊
    四六判並製 / 320頁
    ISBN:978-4-909544-14-8


    インターネットと草の根文化
    炎上、祭り、ネットスラング、アスキーアート、オフ会、MMD、MAD……。
    「2ちゃんねる圏」を舞台にネットユーザーが生み出した「くだらない」「取るに足らない」文化は、それゆえに論じられないままでよいのか。
    SNS全盛の現代、オワコンといわれる「2ちゃんねる圏」の文化に、社会学の知見を用いて大まじめに切り込む、ネットカルチャー論。


    目次
    序論

    第一章 ネットカルチャー研究の発展に向けて──ポピュラー文化と参加文化の視点から
    はじめに/一 日本社会を文脈とするネットカルチャーの歴史/二 電子掲示板2ちゃんねるに関する研究/三 ネットカルチャー研究の停滞/四 ネットカルチャー研究の発展を図るための視点/おわりに

    第二章 インターネット上のニュースとアマチュアによる草の根的な活動
    はじめに/一 インターネット上のニュースをめぐる草の根的な活動の歴史/二 アマチュアによる草の根的な活動を研究することの困難/三 ポピュラー文化とニュース/四 アマチュアによる草の根的な活動と社会問題の接点/おわりに

    第三章 インターネットを通じて可視化されるテレビ・オーディエンスの活動──公共性への回路
    はじめに/一 オーディエンスと不可視のフィクション/二 インターネットを通じて可視化されるオーディエンス/三 2ちゃんねるの圏域に見られるテレビ・オーディエンス/四 インターネットを通じたテレビ・オーディエンスの活動に見る既視感/五 インターネット上のテレビ・オーディエンスの活動に見る公共性/おわりに

    第四章 インターネット上のアマチュア動画に見られる「カルト動画」
    はじめに/一 インターネットにおけるアマチュア動画の歴史/二 インターネット上のアマチュア動画に関する研究の展開と枠組みの検討/三 言及がはばかられるインターネット上のアマチュア動画/四 カルトとしてのアマチュア動画/おわりに

    第五章 オンライン・コミュニティの多様化と文化現象──「下位文化理論」を手がかりとして
    はじめに/一 コンピュータ・ネットワークを介した人々の集まりと「コミュニティ」/二 オンライン・コミュニティ論の停滞/三 多様なオンライン・コミュニティの共存と成員間の相互作用/四 オンライン・コミュニティの多様化とインターネット空間の「都市化」/五 オンライン・コミュニティ成員間の相互作用と文化/おわりに

    第六章 インターネットにおける炎上の発生と文化的な衝突
    はじめに/一 インターネットにおける炎上の歴史/二 フレーミングと炎上の違い/三 炎上が起こる理由/四 下位文化理論から見る炎上/おわりに

    第七章 ネットスラングの広がりと意味の変容──「リア充」を事例として
    はじめに/一 コンピュータ・ネットワークを介した人々のやりとりとスラング/二 日本社会を文脈とするネットスラング/三 インターネット空間におけるコンテンツの拡散/四 「リア充」というネットスラングの広がり/五 ネットスラングの広がりとサブカルチャー/おわりに

    第八章 ネットユーザーによるコンテンツへの関与をめぐる批判的考察──2ちゃんねるのまとめサイト騒動を事例として
    はじめに/一 ソーシャルメディアの普及とネットユーザーによるコンテンツへの関与/二 ソーシャルメディアのプラットフォームが生み出す利益や報酬/三 金銭的報酬の獲得を企図したコンテンツ流用とネットユーザーの反発/四 「名づけ」としての「ステマ」や「アフィ」/おわりに

    第九章 インターネット空間における「ネタ」の意味──「遊び」の研究を手がかりとして
    はじめに/一2ちゃんねるにおけるやりとりと「ネタ」/二 ソーシャルメディアの普及に伴う「ネタ」の変容/三 「ネタ」と「遊び」/四 「ネタ」の位置づけとその変容/五 インターネット空間における「ネタ」の意味/おわりに

    終章 ネットカルチャー研究の課題

    参考文献
    初出一覧
    あとがき
    索引→公開中


    著者
    平井智尚(ひらい・ともひさ)

    1980年 新潟県生まれ
    2003年 日本大学法学部新聞学科卒業
    2009年 慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻後期博士課程単位取得退学
    現在 日本大学法学部新聞学科専任講師
    主著
    『ニュース空間の社会学──不安と危機をめぐる現代メディア論』(共著、世界思想社、2015年)、『戦後日本のメディアと原子力問題』(共著、ミネルヴァ書房、2017年)、ニック・クドリー『メディア・社会・世界──デジタルメディアと社会理論』(共訳、慶應義塾大学出版会、2018年)

    書評・紹介

      ほんのうらがわ(編者による刊行エッセイ)

      『宮沢賢治論 心象の大地へ』から「第二十章 大地の設計者 宮沢賢治 温泉を中心に」を無料公開!

      2020年12月刊行の『宮沢賢治論 心象の大地へ』から「第二十章 大地の設計者 宮沢賢治 温泉を中心に」をPDFで公開いたします。
      一般の方に向けた講演録を加筆修正した、よみやすい章です。

      「第二十章 大地の設計者 宮沢賢治 温泉を中心に」

      宮沢賢治論 心象の大地へ

      岡村民夫 著

      2020年12月28日

      定価 3,200円+税

      宮沢賢治論 心象の大地へ

      宮沢賢治論 心象の大地へ新刊

      岡村民夫 著

      定価:本体3,200円+税

      2020年12月28日刊
      四六判並製 / 512頁
      ISBN:978-4-909544-13-1


      著者25年の賢治論集成
      宮沢賢治賞受賞!

      「虹や月明かり」からもらった膨大な「心象スケッチ」は、繋がり、重なり、変容し、不整合なまま、やがて〈心象の大地〉として積み上がる。
      テクストにはらまれる矛盾や齟齬をこそ賢治文学のリアルと捉え、その正体を求めてイーハトーブを踏査し続けた、著者25年の集大成。


      目次

      Ⅰ 初期作品考──心象の時間
      第一章 「水仙月の四日」考 斜行する交換系
      第二章 「かしはばやしの夜」考 喧嘩から心象スケッチャーたちの祝祭へ
      第三章 「鹿踊りのはじまり」考 終わりのはじまりについて
      第四章 踊る文字「蠕虫舞手」について

      Ⅱ 距たりと生成
      第五章 賢治的食物
      第六章 大いなる反復者
      第七章 宮沢賢治における「動物への生成変化」

      Ⅲ 宮沢賢治と……
      第八章 映画の子、宮沢賢治
      第九章 宮沢賢治と活動写真
      第十章 島耕二は宮沢賢治からなにを受け取ったか
      第十一章 宮沢賢治と『遠野物語』(講演)
      第十二章 詩人黄瀛の光栄 書簡性と多言語性
      第十三章 詩人黄瀛の再評価 日本語文学のために

      Ⅳ 少年小説考──メタ心象スケッチと未来の大地
      第十四章 「風の又三郎」論 心象を問う少年小説
      第十五章 宮沢賢治の〈郊外の夢〉 「ポラーノの広場」論(一)
      第十六章 転位する広場 「ポラーノの広場」論(二)

      Ⅴ イーハトーブのフィールドワーク
      第十七章 昭和二年、光の花園
      第十八章 宮沢賢治と庭園
      第十九章 『岩手医事』と宮沢賢治
      第二十章 大地の設計者 宮沢賢治 温泉を中心に(講演)→公開中
      第二十一章 イーハトーブ地理学

      初出一覧


      著者
      岡村民夫(おかむら・たみお)

      1961年、横浜に生まれる。立教大学大学院文学研究科単位取得満期退学。法政大学国際文化学部教授。表象文化論、場所論。
      著書に『旅するニーチェ リゾートの哲学』(白水社、2004年)、『イーハトーブ温泉学』(みすず書房、2008年)、『柳田国男のスイス──渡欧体験と一国民俗学』(森話社、2013年)、『立原道造──故郷を建てる詩人』(水声社、2018年)など。訳書にマルグリット・デュラス『デュラス、映画を語る』(みすず書房、2003年)、ジル・ドゥルーズ『シネマ2*時間イメージ』(共訳、法政大学出版局、2006年)など。
      宮沢賢治学会イーハトーブセンター副代表理事、四季派学会理事、表象文化論学会会員、日本エスペラント協会会員。

      書評・紹介

      ほんのうらがわ(編者による刊行エッセイ)

      井上靖とシルクロード

      井上靖とシルクロード西域物の誕生と展開

      劉 東波 著

      定価:本体5,400円+税

      2020年12月24日刊
      A5判上製 / 320頁
      ISBN:978-4-909544-12-4


      史実のすきま 想像力のはばたき
      人々にシルクロードのロマンを届けた井上靖。足を踏み入れたことのなかった西域を、作家はどう描いたのか。典拠と作品の比較から、史実と想像力がせめぎあう歴史小説の秘密に迫る。
      宮澤賢治と松岡譲の西域物もあわせて論じる。


      目次
      序章 総論
      一 敦煌ブームと日本近代文学
      二 本書の構成

      Ⅰ 井上靖の西域物の誕生

      第一章 西域物の源泉──「漆胡樽」
      一 詩から小説へ
      二 井上靖が参照した「漢籍」
      三 小説「漆胡樽」における虚構
      四 「漆胡樽」から他の西域物へ

      第二章 対の器物から生まれた作品──「玉碗記」
      一 事実に支えられている作品
      二 作品における対構造

      第三章 西域で活躍した人物──「異域の人」の班超
      一 初期の西域物
      二 典拠との比較
      三 班超の生きる意味

      Ⅱ 井上靖の西域物の発展と変遷

      第四章 「楼蘭」と『敦煌』
      一 「楼蘭」におけるロブ湖
      二 『敦煌』の創作と方法
      三 『敦煌』における人物像

      第五章 西域の水・河(川)を描く作品──「洪水」
      一 井上靖と河(川)
      二 「洪水」典拠の再検討
      三 「洪水」における疑問点
      四 西域経営と自然破壊

      第六章 史実に即した作品──後期の西域物
      一 「崑崙の玉」の典拠と方法
      二 「崑崙の玉」──対の夢追い物語
      三 「僧伽羅国縁起」と「羅刹女国」

      Ⅲ 日本近代文学における西域物

      第七章 宮澤賢治の西域物
      一 宮澤賢治の西域物とは
      二 宮澤賢治と島地大等
      三 宮澤賢治と近代中央アジア探検

      第八章 松岡譲の西域物
      一 忘れられた作家
      二 『敦煌物語』の成立と方法
      三 大谷探検隊から大谷ミッションへ

      終章 まとめと今後の課題

      Ⅳ 付録

      付録① 「異域の人」作品本文と典拠の比較
      付録② 『敦煌』参考文献一覧
      付録③ 井上靖西域関連著作一覧
      付録④ 井上靖水・河(川)関連著作一覧
      付録⑤ 「崑崙の玉」初出稿と改訂稿の比較
      付録⑥ 宮澤賢治西域関連著作一覧
      付録⑦ 松岡譲仏教関連著作一覧
      付録⑧ 半藤末利子氏インタビュー──父・松岡譲の作家生涯について
      付録⑨ 長岡市郷土史料館所蔵松岡譲資料一覧
      付録⑩ 『敦煌物語』典拠資料一覧

      初出一覧
      あとがき
      索引→公開中


      著者
      劉 東波(リュウ・トウハ)

      1989年、中国甘粛省生まれ。2019年に新潟大学博士後期課程修了、博士号(文学)取得。国際日本文化研究センター共同研究員、日本学術振興会特別研究員(PD)、新潟大学博士研究員を経て、現在は南京大学外国語学院の助理研究員。

      書評・紹介

      ほんのうらがわ(編者による刊行エッセイ)